ふざけた黒猫

VGプラス(Kaguya)の井上彼方といいます。

読む前に書いた

読む前に書け、というイベントに参加して書いた小説です。

その場で与えられたお題に沿って、15分で原稿用紙一枚にエッセイでも詩でも小説でもなんでもいいので書く、というワークショップ。

「情熱」がお題でした。

 

 

「情熱」

 思い返すといつも雨の日だった。玄関で傘をバタバタとさせ、僕の靴をびしょびしょにする。本当に最悪だ。
 手にはいつも、雨でしっとりとしたケーキの箱を持っていて、僕の好きなエクレアが入っている。機嫌の取り方がワンパターンなんだよ。工夫しろよ。喉まで出かかった言葉は、それでもいつも飲み込んでしまう。
 濡れちゃったからさ、バスタオル貸してよ。
 そう言われた時に差し出すのが、いつものふわふわな水色のバスタオルな時点で、どんなに怒った顔をしていても僕の負けだ。
 傘さしてんのになんでそんなに濡れてんだよ。精一杯怒った口調で言ってみる。もう帰って来んなって言っただろ。泊まるとこなんてないしお前の布団はもう捨てたよ。一緒に飼っていたカメだって、こないだ死んだ。お前がいなくなったから、お前が早く帰ってこないから。
 許されるってわかってるくせに、本気で困った顔で、エクレア買ってきたよってお前は言う。